遠くても、きっと手が届く
著者:高良あくあ
*悠真サイド*
実験中――
俺と森岡さんは、部長に言われた実験をしながら、たまに陸斗と瀬野さんのほうを見ていた。
森岡さんが小声で、楽しそうに言う。
「上手くいっているみたいですねっ」
見ると、瀬野さんと陸斗は何か楽しそうに話をしながら作業をしていた。
……あ、何かまた陸斗に対する物凄い殺意が湧いてきたなぁ。
殺意は隠して、答える。
「みたいだね……あれなら、これ以上俺達が何かしてやることも無いんじゃないかな?」
「そうだと良いですねー」
そうであることを願いたい。
しばらくして陸斗が帰ると、瀬野さんは凄く嬉しそうな表情で俺達を見てきた。
「ありがとうございます、躑躅森先輩。泉君と紗綾も、本当にありがとっ!」
「まだよ、瀬野さん……いえ、秋波。告白するまでは、満足しちゃ駄目っ!」
「はいっ、夏音先輩っ!」
あれ、何かこの二人、変な関係になっていないか、師弟関係みたいな。ちょっと違う気がするけど。
「じゃ、今日は解散。森岡さんと瀬野さんは明日も来るように。悠真も、羽崎を引っ張ってきなさい」
「はいはい……」
嘆息する。
まったく。この人はどこまで迷惑で、そして……
お人好しなんだか。
***
帰り道。校門のところで森岡さんにエンカウント。
「あれ、森岡さん? まだ帰っていなかったんだ」
「え、あ……あ、あの、私、家が泉君と同じ方向にあるんです!」
「へぇ、そうなんだ……じゃ、一緒に帰る?」
「は、はいっ!」
森岡さんが笑顔を見せる。ああ、可愛いなぁ。
「でも良いの? 俺なんかと一緒に帰っても、嬉しくないだろ?」
「い、いえっ、そんなことありませんよ! 知りません? 女子の間では、泉君も凄く人気があるんですよ?」
ならどうして、告白された経験が片手の指で数えるほどしかないのか。
まぁ、森岡さんが俺に気を遣ってくれたのだろう。
しばらく雑談をしながら歩き、曲がり角で森岡さんが立ち止まる。
「じゃ、私はこっちなので……」
「あ、送っていくよ」
「え?」
「いや、だってもう遅いし。こんなに遅くなったのは部長のせいでもあるからな。それに、森岡さん可愛いし」
俺の言葉を聞いて、森岡さんの顔が真っ赤になる。
「ちょ……どうかした? 俺、何か変なこと言ったかな」
可愛いと言われて嫌な気持ちになったわけじゃないと思うけど。事実だし。
ああ、でも面と向かって言われると流石に恥ずかしいのかな。
「な……何でも無いです! じゃあ、送ってもらえますか?」
「うん」
*紗綾サイド*
泉君を話をしながら歩いていると、やがて見覚えのある門が視界に入る。
「あ、あれです」
「……森岡さんって、相当の金持ち?」
「え? ……い、いえ」
母が医者で、父はとある有名会社を経営しているけど……言うと、何か自慢みたいだし。
……話を逸らそう。
「えと、泉君。ありがとうございました、送ってくれて」
「ああ、気にしなくて良いって。さっきも言ったけど、部長のせいでもあるからね。……じゃ、俺はこれで。また明日」
「あ、はい」
最後に一度笑顔を見せて、もと来た道を戻る泉君。
その背中を見ながら、ポツリと呟く。
「私じゃ、敵わないんでしょうか?」
彼の話の中に、『部長』という言葉が何度出てきたか。
秋波ちゃんと違って――私が自分で頑張らないといけないのかな、この恋は。躑躅森先輩が強敵なのは間違いないし。
「遠いなぁ……」
角を曲がったせいで、泉君の姿は見えなくなっている。
泉君の歩いていった方向を眺めて、私は嘆息した。
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